2月のある晴れた日曜、仕事でバローロに出かけていった原始人とわたし。
車を飛ばすこと1時間半、この日のバローロはVESPAの集会があってイタリア各地から自慢のVESPAにまたがった人たちで賑わっていました。
バローロで私たちを迎えてくれた仕事の関係者はこのイベントを喜んでいたけど私たちはどちらかというと人ごみからはさっさと非難したいアマノジャク、と、思いきや、、、現地での仕事をさっさとすませた原始人はお気に入りのワイナリー巡りで頭がいっぱい。
残念ながら友人のアウグスト・カッペッラーノはトスカーナのジョバンナ・モルガンティさんのところに行っていて留守。となると次に頭に浮かぶのはリナルディさん。
原始人が最高のバローロの造り手は『悔しいけど(?)この人』と評すジュゼッペ・リナルディさん。が、気難しく個性の強い、文化と教養の深さで一目おかれ彼は原始人にも難関中のナンカン。
ですが、原始人にはまたその効きすぎたほどの皮肉もへそ曲がりなところも彼の作るワインと同じくらい大好き。彼の嫌がることはしたくないし彼の邪魔をするのは避けたい。
でもこの日、できることならバローロで手に入れて帰りたい彼のワインが原始人にはあったのです。それはバローロではなくROSAE。実はアスティの一部の地域で作られているRuche’(ルケ; ルケの『ケ』にアクセントマーク)というワイン。
快晴の空、うじゃうじゃ人のいるこの日のバローロ村にリナルディさんが自宅にいるはずがないし、邪魔もしたくない、と原始人はまず小さなワインショップでこのリナルディさんのルケがないか聞いてみることにしました。
『だけどなあ、あの店にはなぜかしらおいていないんだよなあ、、、』
案の定、、、
『ない、売り切れ。でも、本人にきいてみるといいよ、さっき家の前を通りかかったらいたよ。』
商売気がないといえばない店主、親切といえばとても親切なワインショップの店主に背中をポンと押されたかたちでリナルディさんを訪ねることに、、、
自宅の門を抜け、車から降りてみると確かにご本人が玄関先でなにやらバイクをいじっているところ。私たちの車のエンジン音にも頭を1ミリたりとも上げることもなく黙々となにやら作業中。
つかつかと近づき声をかける原始人ですが、頭を上げてくれたのは3回ぐらい声をかけてからだったでしょうか。わたしなぞちょっとおどおどとしてしまいますが、、、気にしない原始人。
リナルディさんは彼の愛車の一つLambrettaのお手入れ中でした。
『時々はこうやって労わってやらないと。』
原始人も昔はランブレッタに乗っていたから狂喜乱舞!でもタダモノのランブレッタじゃなさそう。
確かに52年生産のランブレッタでした。『今も乗れるの?』
『当たり前だ、今日はこの村でVESPAの集会をやっているだろう。去年はその中をこれで走り回ったさ。したら君、村の連中が怪訝な目で見られるじゃないか。今年もこれから乗り込んでやりたいところだが、まあ、大人気ないのもなんだしな、ここでほらこうやって手入れしてやってるのさ。』
こうしてバイクの話(彼はバイクばかりなんと20台を所有しているそうです。)、戦争の歴史から最後は原始人のお目当てルケの話になりました。
『アスティの人には申し訳ないが、僕にとってはリナルディさんのルケが最高のルケと思う!』と原始人。
途中から参加したリナルディさんの友人がそれにうなずく。……と、リナルディさん
『そうかい。だがね、俺は一度アスティのルケ祭りに参加したことがあるがね、そこで同じことをどっかの評論家さんが公言しまったもんだからアスティ中の生産者ににらまれたよ。ああ、それからは残念だが二度と参加できなくなったね。くわばらくわばら!』
このルケというピエモンテの土着品種ですが赤ブドウでとてもフルーティー、妙にフランスのボージョレーで栽培されているガメイに風味が似ています。
スコルツォレンゴなどの極限られた地域のみでの生産が許されているため地域外で栽培醸造をしているリナルディさんはルケと表示することじゃ許されず、『ROSAE(ロゼ)』と名づけて販売しています。
でもこのリナルディさんのワインには小さな隠されたストーリーがあります。
リナルディさんのお父さんは戦中、アフリカで捕虜になった時期がありました。同じ牢にいたイタリア兵たちと言葉を交わすうち、その一人が同郷でアスティ出身、その人もワインを作っていると知り、二人は仲良くなりました。
ここで二人はある約束をしてお互いを励ましあいました。
『もし二人が共に生きて故郷に戻れたら、お互いが育てているブドウの木をもってそれぞれの家を訪ねよう。そしてそれぞれの畑にそれを植えようと。だから頑張って生き残ろう。』
その後、幾多の困難があったか知りません。でもとにかく二人は生きて故郷の土を再び踏むことができ、その友人はリナルディさんの畑に本当にルケの苗を植えてくれたそうです。
だから息子であるジュゼッペさんもそれをおろそかにすることは出来ない。
原始人はこのワインが大好き。一つには彼の大好きなボージョレーのワインと共通する味わいがあること、親しみやすさ、フルーティーさがあることでしょうか。しかも、魔術師のようにワインはこうあるべきというお手本のようなワインを生み出す手をもったこの男リナルディの手がけるワインですから、彼にはお宝ワインなのです。
この日、お喋りのあと2つ3つのリナルディさんの小さな意地悪(皆さんのご想像におませするとしましょ)にも耐えた私たちは彼のROSAEを売って頂くことに成功!!こういうときは余所見は禁物!にっこにこで帰途についたのでありました。
アウグスト・カッペッラーノ、ジョバンナ・モルガンティやジュゼッペ・リナルディさんについて知りたい方はこちら
http://www.racines.co.jp/library/goda/44.html
ランブレッタについてはこちら
http://mods.beat-net.info/scooter/lambletta.html
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