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ピエモンテからぶじゃねんの陽だまる山郷生活

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『足りない何かがあるとするなら』- 日本を代表すヴィニャイヨーロ、岡本英史さんに聞く

久々に投稿いたします。

今年1月に始まったイタリアの食の評論家パオロ・マッソブリオさんとのコラボレーションもそろそろ1年が過ぎようとしています。今回は、この10月に伺った山梨県にあるワイナリー『Beau Paysage』のワイン生産者、岡本英史さんへのインタビューです。気に入っていただけるといいのですが、、、では、どうぞ。



足りないものがあるとするならば (原題 Quello che manca.)』


http://www.ilgolosario.it/assaggi-e-news/attualita/un-grande-vino-giapponese


 晩秋の陽光が山里のログハウスのガラス戸越しに差し込んで、私たちをなんとなく暖めてくれていた。何日か前、私たちは刺すほどに乾いた冷気の流れる山村に居た。

私たちの住むアルプスの麓ではあまり珍しくない。ただ、その時私たちがいたのは日本のアルプスの麓だった。


「普段何を飲まれれていますか?どんなことに興味が話してみてください?」
それまで彼を質問攻めにしていた私たちに今度は岡本さんが聞いてきた。

BEAU PAYSAGE』のEISHI OKAMOTO、現在、日本のヴィニャイヨーロ(自分でブドウを栽培するワイン生産者)の中でシンボル的な生産者。


 全ては5年前、東京でそれと知られた焼き鳥屋(鶏肉の串焼き専門店)で飲までせてもらった彼のジェルドネに始まる。

クラウディオとの日本旅行の途中で国産ワインをいくつか試したものの心に残るものに出会えないでいたが、彼のシェルドネの奥深さと活力にイタリアやフランスのワインを含めてもそれまで感じたことの全く無い衝撃を覚え、以後ずっと彼に会ってみたいと願ってきた。

が、その瞬間、イタリアへの帰国を12時間後に控えていたからか、山梨の谷間にあるその静かな空間で彼と向き合っていることが不思議に思えてならなかった。


 クラウディオが、僕たちは様々なワインを飲むが特に食事とワインの組み合わせを楽しむのが好きだと答えると、シャルドネを既に知っているようだからとピノ・ブランの栓を切ってくれた。

グラスに注がれる深い黄金色を見て長期に醸されているのが見て取れる。ところが、個性的で力強い味わいを想像しながら口に含み、その柔らかさとエレガンスに驚嘆した。

『こんなワイン飲んだことない!』というと、彼に私たちを引き合わせる労をとってくれた近しい友人が楽しそうに言った。


「岡本さんのワインを飲むと多くの人が一様に『この品種のこんなワイン飲んだことがない』といいます。それぞれの品種のもつ特徴についての概念が覆されるでしょう?」


醸しはこのワインの特徴のほんの一部として味の中にバランスを持って存在し、ともするとこのタイプのワインにありがちな濁りも一切無い。フルーティーさ、穏やかさの中にみなぎる活力がある。このワインには命が宿っていると強く感じた。


彼自身も確認するかのようにゆっくりと岡本さんが口を開く、
「白ワインはそのほとんどが果汁のみで表現する製法を用いていますが、それは歴史的には浅く、本来は白ワインも果皮も種も含めた果実全体で表現をするべきものなんです。」

 岡本英史さん45歳。20年前、大学の農学部で生物学の研究をしていたころ、アルバイト先のイタリアン・レストランでワインに魅了された。

まだあまり知名度のない日本産ワインを東京で売ることを仕事にしたいと、時間を見つけては日本のワイン産地として有名なこの山梨に同僚たちと出かけて来て生産者を訪ねるようになった。

だが、そこで彼が目にしたものは当たり前に思っていたフランスやイタリアでのワインに対するのとは『全く違った事が行われている』という現実だったと言う。

彼のこの表現に、当時の日本人の知らぬが故の安易なワイン作りとその事への彼の落胆振りが想像できた。

(例えば日本では未だ補糖が許されている。)そこではワインは『単なる飲み物』でしかなかった。だったら自分で作るしかない。

 


 岡本さんは99年から山梨県でブドウ栽培を始めているが、選んだ場所は勝沼のようなワイン生産で知られた地域ではなく『Beau Paysage』の名にふさわしい谷間に棚田の広がる津金だった。

現在、2haほどの畑でシャルドネ、ピノ・ブラン、ピノ・グリーそしてソヴィニョン・ブランの4種の白ブドウ品種とメルロ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソヴィニョン、カベルネ・フランと同じく4種の赤ブドウ品種を栽培。

年平均で12000から15000本程度のワインを生産しているが、土地を購入したときには「ここではブドウは育ちませんよ」と言われたそうだ。

畑では不耕起、不施肥、醸造は自然発酵で、亜硫酸は『ワインを殺してしまい真のテロワール表現できなくなる』と一切添加していない。

Beau Paysage』のワインを世に知らしめたのは日本では栽培が困難とされてきたピノ・ノワールだった。

2002年の初収穫であまりに収量が少なくメルロに混ぜるしかないといわれ、ならばと全て手作業で醸造を行ったした。そうして作られたピノ・ノワールの温かみと柔らかさに彼自身も驚き、その後、赤ワインの醸造は全てこの方法で行っている。

彼のピノ・ノワールはそのルビー色の中に奥ゆかしくもエレガントな居住まいを保ち、飲む人の心を揺り動かし、彼の実力をはっきりと認識させてくれる。

だが、この土地に適した品種をまだ探している試験段階でしかないという。彼の後、100年後ぐらいに誰かが本当に適した品種が見つけてくれればそれでも良いくらいに思っていると笑った。実際、今年に入ってネッビオーロも植えている。


「大切なのはぶどうです。ぶどうはその土地をそのまま写し取ったものでなくてはならない。ワインを飲むということはその土地の自然と触れ合うことであり、意識的、無意識的に人も自然の一部であることを確認する行為と考えます。」


 岡本さんが語る声は細く気をつけて耳を傾けないと聞き逃してしまいそうなくらいだが、その言葉には自分の『もの作り』への明確な認識が感じられるだけでなく、朗らかさがある。

どことなく土の中から這い出してきたコオロギか何かの昆虫に地面の下の世界を語ってもらっているような楽しさがある。
 

 彼はイタリアに来たことがない。20年以上前にフランスを旅したことがあるきりだ。ヨーロッパの生産者との交流はあっても僅か。

なのに彼が自然に身につけたワイン生産へのアプローチは、リーノ・マーガ、テオバルド・カッペッラーノ、ジュゼッペ・リナルディやサルヴォ・フォーティといった私たちの良く知るイタリアの偉大なワインの造り手たちのそれと同じなのだ。

土とブドウに真摯に向き合おうとする人が出す答えは共通して不必要なものをどんどん取り捨てつつ自然に沿うしかないということか!?この疑問に岡本さんは迷うことなくこう答えた。


「実は私には師と呼ぶべき麻井先生という人がいたのですが2002年に亡くなりました。彼が僕に残してくれた言葉があります。

『日本のワイン作り足りないものは気候でもなく、技術や知識でもない。足りないのは思想です。自分の心の教科書を破りなさい。そして、自分の頭で考えなさい。』」


 島国日本は、太古から稲作や仏教に始まる新たな外の文化に触れる度に無垢な心で驚愕し自国の文化に調和をもって取り入れてきた。

だが、グローバル化が人の手を離れたところで加速する一方の現代、私は海外に暮らす日本人として、海外からの新しさを礼賛するあまり日本のこれまでの伝統文化が廃れるのではないかという複雑な思いをずっと募らせてきた。

今回、岡本さんに会ってみて日本の伝統や農業が抱える問題は、この千年来の国民性にあるのではなく、もっと別のところにあるのだと思い知らされた。


 「今、ボトリング作業をしているのですが、最後に見て行かれますか?」
小さいが塵一つ無い作業場に入ると2リットル入りのひしゃくで青年がワインをタンクからゆっくりゆっくり桶に移していた。

岡本さんは亜硫酸を添加したくないがためにワインへの空気による衝撃を最小限にしようとポンプを使わない。

チューブからボトル内に落ちるワインの雫は壁面を伝って静かに納まっていく。一滴もこぼさぬようボトル交換のタイミングを無言で待つスタッフ。

これだけは日本人にしか考え出せない究極の作業方法だ。彼は除梗も全て手で行っている。彼がやろうとしているのはまるで泉に沸きだす水を両手に掬い取るがことく、ぶどうを介し、まるごとの自然を私たちの口元に運んで来て流し込んでくれるようなものだ。


 別れ際、「今度はこの辺りに泊まったら良い、もっと色々話ができるから」と彼が微笑んだ。イタリアと日本はまだまだ話し合うべきことが山ほどある。


 12月9日 www.ilgolosario.it 掲載



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